歴史的不正義(Historical Injustice)


『イランで羊飼いをするアフガニスタン難民』

岡野内 正

歴史的不正義とは、住んでいた人を殺したり追い出したりして、土地を取り上げることに代表されるような、人間が人間に対してこれまでの歴史の中で行ってきた、今日の人類のどの文化でも共通に正義ではないとされる、あらゆる不当な行いのことです。
今日の世界の飢餓、貧困、不平等などの諸問題は、国際法を含めて、今日通用している法律が適用されないような古い時代の不正義に起源をもち、70億人の人類ひとりひとりはすべて、そのような古い時代の遺産を受け継いでいます。
たまたま社会保障の完備された先進国に生まれた多くの人は、歴史的不正義でいっぱいの古い時代から、プラス(正)の遺産を受け継ぎ、飢餓と戦争で苦しむ第三世界に生まれた多くの人々は、マイナス(負)の遺産を受け継いでいるわけです。正の遺産を受け継いだ子孫は忘れても、マイナスの遺産を受け継いだ子孫が歴史的不正義を忘れることはなく、いつか正義回復がなされる時のための歴史的記憶として語り継がれています。
だから、今日の世界人類の中で、歴史的不正義の事実を明らかにし、古い時代に奪われた土地などの権利回復の道を探ることによって正義回復を行うことは、世界平和のために欠かせない課題です。
それは、マイナスの遺産を受け継ぐ人にとっては、今日を生きのび、子孫に伝える遺産をプラスの遺産に転換して明るい未来を創るための切実な課題です。プラスの遺産を受け継ぐ人にとっても、祖先の罪の負い目から解放され、子孫に誇りを伝えていくために欠かせない課題です。
日本のアイヌや琉球弧の人々、アメリカ大陸のインディアンやインディオと呼ばれる人々などの世界中の先住民族問題、日本の在日韓国・朝鮮人、アメリカ大陸のアフリカ系の人々などの世界中の被差別マイノリティ・少数民族問題、パレスチナやクルド、西サハラ問題のように今日も続く植民地化問題、日本とアジア諸国、アメリカとラテンアメリカ諸国やベトナム、ロシアと中央アジア、東欧諸国、旧西欧列強と旧植民地諸国との間でのような植民地支配と戦争被害責任問題、インドのカースト、さらに西欧の土着エスニック集団差別や日本の被差別部落、さらに中央と地方の差別として残っている近代的民族形成以前の部族対立問題など、あらゆる民族・エスニック問題は、歴史的不正義の問題として解明され、正義回復の道をさぐる話し合いが必要になっています。
地球上の人類70億人が日々の生活に追われていては、そのような話し合いは不可能です。そこで、歴史的不正義の解明と正義回復のために、人々の生活を保証するグローバルなベーシック・インカム(地球人手当)の導入は不可欠です。
過去も未来もないまったくの個人主義の立場に立つ場合、歴史的不正義というより、歴史じたいがそもそも問題にされません。
歴史を民族(ネイション)中心の物語としてとらえてしまう方法論的民族主義(ナショナリズム)の立場に立つ場合、はてしなく歴史をさかのぼることは、民族(ネイション)形成過程の不正義までも問題にし、民族(ネイション)の存在じたいが揺らぐことにつながるので、避けられてきました。
そんなわけで、歴史的不正義の解明、ましてや、正義回復の問題は、これまでほとんど研究されてきませんでした。
この文章を読んだみなさんが、世界の歴史を書き換えて、子孫に誇れる人類の歴史を創り上げていくこの事業(歴史的不正義の解明と正義回復の道の探求と実現)に参加されることを願っています。


♬  21世紀の多国籍企業資本の植民地的起源 原稿 (2017)
…21世紀の全世界の多国籍企業は、株式の持ち合いによって、一つの財閥グループ企業集団のようになっており、その中枢にある金融機関の資本、つまり株は、世界中の植民地から集めたもの。だから、人類みんなのものにしていい。そんな主張をアカデミックに論証してみました。
Global Basic Income as a Starting Point for Redress of Historical Injustice; With Special Attention to Peacebuilding in East Asia
…2016年7月のベーシック・インカム国際学会での報告論文(Paper Presented in BIEN Congress in Seul in July 2016)。全多国籍企業の株を人類有として人類遺産相続基金に入れて、その配当を財源にグローバル・ベーシック・インカムを実現し、さらにあらゆる過去の恨みを対象に歴史的正義回復に取り組むことを提案。グローバル・ベーシック・インカムのところに収録。
人類史の流れを変えるーGBIと歴史的不正義 原稿 (2014)
…教科書向けにできるだけわかりやすく、最近の考えをまとめてみました。
グローバル・ベーシック・インカムのところに収録。
「民族を超える部族」
…ナショナリズムを超えるための新部族主義を問題提起。
「植民地化不正義審判所の可能性」
…ニュージーランドの先住民族問題への取り組みを普遍化して問題提起。
「パレスチナ問題を解く鍵としてのホロコースト(ショア)とナクバ」(上)
(中)   (下)
…新部族主義による歴史的不正義からの正義回復をパレスチナ問題の事例に適用。
「シオニズムから新ユダヤ部族主義へ」
…シンポジウムの報告。